姉妹校 [ネパール]

理事長レポート

~ネパールの辺境~ 姉妹校研修 ネパールの国会議員(元文部大臣)と会見
千葉明徳学園 理事長 福中儀明

 カトマンドゥでの最後の夜、ガイド・通訳をしてくれたロビン君が「国会議員と話しますか?」というのでOKしたら3人の大物を連れてきました。
 場所はガーデンレストラン・デチェリン、ここはネパール料理・チベット料理・ブータン料理の全てがおいしく私の好みの店です。
 われわれの一行8人とロビン君の友人の若者、3人の大物ゲストと総勢12人の盛大な夕食会になりました。
 3人のゲストは、CPN(ネパール共産党)政治局員で元文部大臣の国会議員ガンガラル・トゥラダル氏、ロビン君の叔父さんでネパール教職員組合の委員長(名刺を貰っていないので氏名不詳)、CPN中央委員会委員(同前、氏名不詳)ということで、確かに大物でしょう?
 だからあまり気楽に話せる雰囲気ではなかったのですが、めったにない機会ですから、料理にはあまり手をつけずに(しかしビールのグラスは手から離さず)一生懸命いろいろ話し、意見交換をしました。
 ネパールの最近の政治情勢は混沌の極みのようです。国王が退位して、共和制になり、総選挙が行なわれて武装闘争をやめたばかりの通称マオイスト(共産党からの分派)が第一党になり政権を担ったけれど短期間で崩壊。次に共産党と会議派(通称 Congress)の連立政権ができ、今は会議派単独政権です。政権が変わっても政治は進まず、共和制になって最初にやる予定だった憲法の制定もまだできていません。憲法のない状態が10年近く続いているというのも珍しいことです。
 国連や多数の外国のNGO/NPOからの援助があるから財政破綻を免れているという説もあります。
 それでもほとんどの人々はまあまあ明るく生きているようで、そこがネパールのよいところでもあります。「混沌」ではあるけれど「混乱」はないのです。

   トゥラダル氏は政治家らしく持論をとうとうとしゃべります。私が口を挟む暇は余りありません。私たちが訪れている西ネパール・カルナリ地区は一番遅れた地域だから、あそこの教育がネパールの一般的なものだと思ってもらっちゃ困ります、とも言います。もちろんそんなことはわかっています。
 「Education in Nepal」という本を書店で購入したのですが、多くの教育統計が載っていて大変役に立ちます。
 東西に長いネパールを西からFar Western/Mid Western/Western/Central/Easternに区切り、それぞれを南からTarai(インド国境沿いの低地)、Hill(ヒマラヤ南の高原地帯)、Mountain(ヒマラヤ)に細分してあります。従って5×3で全国を15に分けているわけです。姉妹校のあるカルナリ地区(県)はMid Western Mountain に属します。そしてカトマンドゥ盆地だけは別格でCentral Hill の中にありながらKathmandu Valley として独立させてあります。
 全国を15+1に分けた統計に、例えばSLC(School Leaving Certificate高校卒業時に受ける全国テスト。大学進学希望者は受験が義務付けられる)の合格率別に塗り分けた地図があります。こうすると一目瞭然、Taraiを除くFar Western/Mid Western が最下位です。Gender Gap の統計でも同様です。
 トゥラダル氏はほとんど一方的にしゃべって、携帯電話に出て、ちょっと用事が入ったからと席を立ちます。記念写真を撮って別れて、次は残る2名とゆっくり話しました。
 ネパールの中等教育は普通教育しかないようだが、日本には農業高校・工業高校・商業高校があり、大学進学率が高くないうちはそれぞれの分野の発展に大変役立った。ネパールもそうしたら?という私の提案には、なるほどとうなずいてくれたけれど――今からでは遅いでしょうね。
 カトマンドゥから隣町のバクタプールまで幅50mはありそうな立派な道路ができています。日本のODAの資金で日本の大手建設会社が入って作ったものです。でもこんな過剰な道路は要らなかったんではないか、それよりは大きなダムを作ってたくさん発電すべし、電気が充分でなければ産業も起こらないよ、と言っておきました。
 ODAの資金で作るのならやりやすいのではないかと思うのですが、二人は「いや今は会議派の政府だから無理だよ」とあきらめ気味、これではだめです。
 100年も前にレーニンが「国家の近代化はまず電化から!」と言ったのにネパールはまだそこにも至っていない、というのは大変残念な悔しいことです。巨大なダムでなくとも、ダムなしの小規模水力発電ができる時代なのですから、なんとかできるはずです。
 もうひとつ聞きたかったことがあります。最近は中国と韓国の観光客の来訪が多く、日本人観光客が目立たなくなった。中国と韓国からのODA等の援助も増えているのかもしれない。インドと中国という二つの超大国にはさまれたネパールはどちらにも飲み込まれないような国家の運営は難しい。日本の援助はネパールの独立を保つためにも役立ててほしいが、中国と韓国に援助額が負けてしまっては話にならない。この点はどうなのだろう?――という質問です。
 これについては、中央委員は「中国から観光客は来るが資金援助はない。心配はいらない」と言い、委員長は「しかし韓国は最近熱心だ。うかうかしてると日本が負けるかもしれない」と言います。
 日本政府はインドや中国などの大国との関係は気にするけれど小国は無視している傾向は確かにあるでしょう。

 カトマンドゥからバクタプールへ向かうバスの中で話したトリブヴァン大学(ネパール唯一の国立大学)の心理学の先生は「日本の仏教は人々の心を穏やかにする力――癒しの力――がある。私はこれを研究している」と言っていました。私が「ヒンドゥー教ではだめなのか?」と問うと、ヒンドゥーの神様はあまりに人間的で、人々から恐れられる血なまぐさい神様もいる。だから癒しにはならない――とのことです。
 血なまぐさい神様と言えばシヴァ神ですが、恐れられると同時に敬われてもいるようです。人々が一番親しみを持っている神様であるとも言えるでしょう。神様をマスコット化してゆるキャラのようにする傾向もあります。書店には神様を描いた絵本もたくさんあります。一神教の神様のような深刻なところがまるでなく、これはこれで楽しいものです。
 混沌から生まれた神様たちがヒマラヤを作り、人々を見おろす。今、混沌の中にある人々は何を作るのか、これに注目していきたい――(まず電気を作ってね)

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